動脈硬化を早期発見できる「血管内皮機能検査」
治療やリハビリにも有用、医療現場で重要性高まる
血管の内側を「血管内皮」と呼び、その機能が衰えると動脈硬化につながる――。これが最新医学によって明らかになった。血管内皮の機能を体外から評価する装置が、血管内皮機能検査装置だ。
2014年7月10~11日、東京都内で第46回日本動脈硬化学会総会・学術集会が開催され、東京医科大学循環器内科・山科章氏と東京医科歯科大学生命倫理研究センター・吉田雅幸氏が座長を務め、5人の専門医が「今なぜ、内皮機能検査」をテーマに講演。血管内皮機能検査により、動脈硬化を早期発見できることが確認された。
また、心臓病や脳卒中が起こるリスクの推定、治療中患者の今後のリスク推定、治療効果の判定や治療薬の選択、リハビリ患者の動機付けにも有用であることがわかった。
各講師の熱のこもった講演と、血管内皮機能検査の有用性の最新知見を知ることができたため、会場は大いに盛り上がった。
医療現場で重要性高まる「血管内皮機能検査」
血管の内側にある血管内皮は、血管の機能や状態を維持している。しかし、高血圧や脂質異常症、肥満などを患うと、血管内皮が徐々に傷つく。血管内皮機能が弱まると動脈硬化につながる。このため、血管内皮機能を測定することで、動脈硬化を早期に発見できる――。
広島大学原爆放射線医科学研究所の東幸仁氏は、「血管内皮機能検査オーバービュー」と題して、血管内皮機能検査の現状を解説、今後を展望した。
血管内皮機能検査により、動脈硬化の早期発見や予防が可能になることを国も認め、血管内皮機能検査は2012年の診療報酬改定で保険適用となった。また、2013年には医師向けに、「血管機能の非侵襲的評価法に関するガイドライン」を策定し、臨床現場での利用が広がろうとしている。
血管内皮機能検査は、心臓病や脳卒中などの心血管イベントが将来的に発生する可能性を予測する指標としても有用だ。また、生活習慣改善や薬物療法などによって、動脈硬化が改善したかどうかを判断する治療指標としても期待されている。
さらに、血管内皮機能の改善によって心血管イベントや循環器合併症の発症を予防できるかどうかを、日本での多施設共同研究「FMD-J研究」で解析を進めていて、結果が期待されるとした。
日本のガイドライン策定 普遍性向上を目指す
現在、臨床で用いられている血管内皮機能検査には、複数の方法がある。血管内皮機能検査は心血管疾患患者の予後の予測に重要だが、日本で行われている測定機器や方法は、2010年に発表された海外のガイドラインでは、「測定者の高度な技術を必要とするため、普遍化が困難」と指摘されたほか、検査法によって若干のばらつきがあることも課題だった。
「日本の内皮機能検査から見えてきたこと」と題して講演した東京医科大学循環器内科の冨山博史氏は、2013年に策定された日本のガイドラインでは、最新のエビデンス(科学的根拠)に基づき、検査法ごとの特徴やポイントなどをまとめ、測定の環境や方法を統一することで、普遍性を向上できるとした。
また、冨山氏らが実施している多施設共同研究「FMD-J研究」では、血管内皮機能を複数の検査法で同時に測定することで、測定装置による相違を検証するサブ研究も行っており、その解析が待たれるとした。
外科手術時の心血管リスク評価に役立つ
これまでの研究で、血管内皮機能障害は、将来、心臓病や脳卒中などの心血管イベントが起こるリスクを示す、独立した指標だとわかっている。陣内病院循環器内科の杉山正悟氏は、「血管内皮機能検査で心血管リスクを評価する―血管内皮機能評価の臨床応用―」と題して講演。
杉山氏らは、心不全や拡張性心不全(HFpEF)、慢性腎臓病(CKD)などの疾患を持つ患者などで、血管内皮機能が心血管リスクの評価指標として有用であることを報告してきた。
また、血管手術前の血管内皮機能が低いと、手術後の心血管イベントの発生が多いことが海外のデータで示されていた。
そこで今回、下肢整形外科手術を行う前に血管内皮機能検査を行ったところ、術後の静脈血栓塞栓症(DVT)の発生リスクを有意に層別化できることを報告。「血管内皮機能評価は、個々の患者での総合的な心血管リスク評価指標として応用できるのでは」との期待を示した。
治療効果の判定に有用の可能性
血管内皮機能検査は、治療前に、将来の心血管イベントのリスクを予想できる。では、高血圧などの病気を起こし、治療を受けている人の血管内皮機能の治療後の変化は、冠動脈疾患の予後にどんな影響があるのだろうか。山梨大学附属病院第2内科の中村貴光氏「冠動脈疾患の予後を診る血管内皮機能検査」と題して講演。
中村氏らは、高血圧と血管内皮機能低下を合併する冠動脈疾患患者に高血圧治療を行い、血管内皮機能の改善の有無別に予後を比較。すると、血管内皮機能が改善した群では治療後の心血管イベントの発生が少なかった。
また、心不全合併患者でも、治療後も血管内皮機能が低下していた群では心血管イベントの発生が多かった。これらの研究から、血管内皮機能検査は、治療予後のリスク評価だけではなく、治療効果の判定にも有用な可能性があるとした。
リハビリ患者への指導に活躍
血管内皮機能は、運動や減量など生活習慣の改善によっても向上する。このため、血管内皮機能検査は、特に複数の併存症を持つ患者にとって有用といえる。
「治療効果を診る血管内皮機能検査」と題して、北里大学医療衛生学部リハビリテーション学科の東條美奈子氏が臨床家の立場から講演を行った。
東條氏らの病院では、心臓リハビリテーションの評価指標の1つとして、血管内皮機能検査を利用。運動や減量、禁煙などによる血管内皮機能の改善効果を患者にわかりやすく可視化して示すことで、患者の動機づけにつなげ、患者指導に役立てている例を紹介。
また、急性心筋梗塞を発症した脂質異常症患者に対する薬物治療に、血管内皮機能検査を利用。効果的な薬物治療を選択した例も紹介した。
血管内皮機能の重要性、もっと啓発を
座長を務めた吉田氏は、「今後、企業や団体の健康診断で血管内皮機能検査を実施し、得られたデータから、血管内皮機能の正常値の設定や、日本人のエビデンスの構築が早急に求められている」と述べた。
また、座長の山科氏は、「血管内皮機能についての認知度は、依然として高いとはいえない。血管内皮機能という概念をさらに普及させるため、医療関係者や一般市民への啓発活動が重要だ」と締めくくった。
プログラム
座長
東京医科大学循環器内科 山科章氏
東京医科歯科大学生命倫理研究センター 吉田雅幸氏
「血管内皮機能検査オーバービュー」 | 広島大学原爆放射線医科学研究所 東幸仁氏 |
「日本の内皮機能検査から見えてきたこと」 | 東京医科大学循環器内科 冨山博史氏 |
「血管内皮機能検査で心血管リスクを評価する ―血管内皮機能評価の臨床応用―」 | 陣内病院循環器内科 杉山正悟氏 |
「冠動脈疾患の予後を診る血管内皮機能検査」 | 山梨大学附属病院第2内科 中村貴光氏 |
「治療効果を診る血管内皮機能検査」 | 北里大学医療衛生学部 リハビリテーション学科 東條美奈子氏 |