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公益信託 日本動脈硬化予防研究基金(JAPF)  

「愛・地球博」開催記念
シンポジウムのご報告
『すこやかに長生き─しなやかな心血管を保つ、運動と食事法─』

2005(平成17)年6月18日(土)、「愛・地球博」を記念した「高齢化社会と心血管疾患」委員会主催の第2回シンポジウムが、東京・大手町の日経ホールで開催された。
『すこやかに長生き─しなやかな心血管を保つ、運動と食事法─』のテーマのもと、3時間半にわたり、基調講演とパネル討論などが行われた。

・主催

愛知万博「高齢化社会と心血管疾患」委員会

・共催

日本経済新聞社

・協賛

公益信託日本動脈硬化予防研究基金

・後援

厚生労働省、日本医師会、日本医学会、愛知県、名古屋市、東京都医師会、
愛知県医師会、日本看護協会、日本薬剤師会、日本栄養士会(順不同)

・連携協力

財団法人2005年日本国際博覧会協会

●概要

プログラムは、愛知万博「高齢化社会と心血管疾患」委員会の井形昭弘委員長の挨拶に続き、尾前照雄 国立循環器病センター名誉総長が「高齢化社会と心血管疾患─動脈硬化はこうして起こる」というテーマで基調講演。
15分の休憩ののち、国立病院機構理事長 矢崎義雄氏、東京慈恵会医科大学教授 田嶼尚子氏、福岡大学名誉教授 荒川規矩男氏、管理栄養士の竹内富貴子氏の4氏が登壇。松田輝雄元NHKエグゼクティブアナウンサーの司会のもと、「すこやかに長生き─しなやかな血管を保つ、運動と食事法─」というテーマに沿って、パネル討論が展開され、各専門分野から最新の研究成果や貴重なアドバイスがもたらされた。

受講者は事前登録制であったが、定員の600人に対して2倍以上の応募者が殺到。抽選によって、受講者が決定された。

会場には、テレビのリモコンに似た赤外線キーパッドが人数分用意され、舞台と会場との双方向のやりとりが試みられた。
これは、パネル討論の合間に、主催者の設問に対して、受講者が数字キーを押して回答するというもの。結果は瞬時に集計され、舞台に設けられた大画面に表示。討論を進める上において、そのデータは大いに参考となった。

●ご挨拶
名古屋学芸大学学長
愛知万博「高齢化社会と心血管疾患」委員会
井形昭弘委員長(専門:神経学、内科学、老年学)

戦後、わが国の平均寿命は順調に伸び、海外で類例をみないほど短期間に長寿国となり、それと同時に世界一の高齢化社会を迎えた。
諸外国は、高齢化社会の先端をいく日本が、どういう選択をするのかを見守っているのが実情だ。そのなかで、私たちは未来を創造していく責務がある。
高齢化社会は、けっして暗い社会ではない。むしろ、円熟して経験に満ちた高齢者をうまく生かしていけば、社会はますます発展していくことだろう。
もちろん、そのために重要なのは、高齢になっても活躍できる健康づくりである。そして、健康づくりを大きく左右するのは生活習慣だ。
本日お招きした講師の方々は、日本を代表する専門家ばかりである。ぜひ、これを機会に、みなさまもよい生活習慣を身につけていただきたい。

●基調講演
「高齢化社会と心血管疾患─動脈硬化はこうして起こる」

国立循環器病センター名誉総長 尾前照雄氏

「健康年齢」ということばがある。これは、他人の世話にならずに、身の回りのことができる年齢のことを指す。高齢化社会を迎えた今日、この健康年齢をいかに伸ばすかが、重要な問題となっている。
そこで重要なのは生活習慣である。それを如実に示すのが、沖縄県の男性の平均寿命である。かつて男女とも日本一の長寿県であったが、いま男性の平均寿命は26位に落ちてしまった。もし、寿命が遺伝的な要素だけで決まるならば、こんな変化は起きようがない。これは、生活習慣が健康にとっていかに大切かを証明する事実である。

「人は血管とともに老いる」といわれているが、ただし個人差が大きいのも事実である。なかでも、高血圧や糖尿病などの生活習慣病は、遺伝と環境の二つの要因に左右される。たとえ家族に高血圧や糖尿病患者がいなくても、環境や生活習慣が悪いと、生活習慣病になる恐れがあるので注意してほしい。

心血管疾患の危険因子は、高血圧、喫煙、糖尿病、脂質代謝異常(高コレステロール血症、低HDLコレステロール血症)、肥満(とくに内蔵肥満)、尿中微量アルブミン、高齢(男性60歳以上、女性65歳以上)、若年発症の心血管症歴が家族にあることなどが挙げられる。
なかでも、高血圧は心血管疾患の発症を大きく左右することが、研究によって明らかになっている。

血圧は、正常値から少し上がるだけでも、動脈硬化を促す要因になる。図からもわかるように、高血圧の人(ここでは最大血圧が140以上)は、正常血圧の人にくらべて大動脈で10年、脳底部動脈で20年分、動脈硬化が進んでいる。
調査から18年後の状態をみると、収縮期血圧が140以上で、脳梗塞の発症比率が急激に増えているのがわかる。
一般に高血圧とされているのは140-90。動脈硬化の進行を遅らせるには、血圧は低いほどよく、望ましい血圧は120-80未満。高血圧の人は生活習慣を改めるのはもちろん、たとえ薬に頼ってでも、血圧を下げるべきだろう。

沖縄県で100歳を迎えた人を調べてみると、160-90以上という高血圧だった人は、全体のわずか1%強。140-90以下の正常値にある人が全体の6割を占めていた。
平均血圧は130-70台前後が多く、これは東京都の100歳以上を対象とした調査とほぼ同じ結果を示している。

もちろん、血圧が正常の範囲にあるからといって安心してはいけない。それが最近問題になっているメタボリック症候群である。血圧が130-85程度であっても、腹部肥満(内臓脂肪)がある人は、コレステロール、血糖値などとのからみで、生活習慣病になる可能性が増すからである。これについては、パネルセッションにおける解説を参考にしていただきたい。

では、血圧はいくつ以下がよいのか。
高齢者140-90未満、若年・中年者は130-85未満、糖尿病・腎臓病患者130-80未満を目標にしていただきたい。
「生活習慣病は沈黙の病気」といわれる。発症してからでは、なかなか健康を取り戻すのが難しい。若いうちから生活習慣を改めて、発症を防ぐことが望ましい。

●パネルセッション「すこやかに長生き─しなやかな血管を保つ、運動と食事法─」

(パネリスト)
独立行政法人 国立病院機構理事長 矢崎義雄氏
東京慈恵会医科大学 糖尿病・代謝・内分泌内科教授 
田嶼尚子氏
福岡大学 名誉教授 荒川規矩男氏
管理栄養士 竹内富貴子氏
(司会)
松田輝雄(元NHKエグゼクティブアナウンサー)

◇家庭用血圧計の普及で「仮面高血圧」の発見を
矢崎義雄氏

いま、医療現場で問題となっているのが仮面高血圧である。これは、病院の外来で検査した際には正常値であるのに、家庭で測ると高い血圧を示すというもの。医師の前で緊張して血圧の上がる「白衣高血圧」とは対照的な症状である。

仮面高血圧には、次の3つのパターンがある。
1. 仕事場でストレスを受けて高い人
2. 夜間に血圧が下がらない人(夜間高血圧)
3. 早朝に血圧が上がる人(早朝高血圧)

 このうち、2または3に当たる人は、常に血圧が高い「持続性高血圧」よりもむしろ危険だといわれている。というのも、脳梗塞、心筋梗塞、脳卒中といった心血管疾患は、午前中に発作が起きることが多いためだ。その時間帯に血圧の高い仮面高血圧の人は、必然的に発症しやすくなる。
調査によれば、正常血圧の人にくらべて、持続性高血圧の人が心血管疾患を発症する危険度が3倍であるのに対して、仮面高血圧の人は4倍という結果が出ている。

仮面高血圧は検査で見逃されてしまうために、家庭で血圧を測ることが重要になる。
現在では、一般の人でも手軽に測れる血圧計が開発されているので、ぜひとも一家に一台常備してほしい。
まず、家庭で測っていただきたいのは、起床時。さらに、日中や夜にも測定して、1日に血圧がどう動いているのかを知っておいたほうがいいだろう。勤め人の方も、会社に血圧計を備えておくことをお勧めしたい。

◇検査値が正常でもメタボリックシンドロームに注意
田嶼尚子氏

運動不足や過食などによって生活習慣が乱れ、複数の動脈硬化危険因子が重なると、心筋梗塞や脳梗塞といった心血管疾患の危険性が高まる。これが、最近話題になっているメタボリックシンドローム(メタボリック症候群)だ。
そもそも、心血管疾患というのは、肥満、高血圧、糖尿病、高脂血症の4つの要素が、お互いにからみ合い血管を痛めつけることによって、血栓が作りやすくなることによって起きる。そして、4つのうち複数の危険因子を持つ人は、そうでない人にくらべて心血管疾患のリスクは6〜7倍となる。

問題なのは、たとえそれぞれの要素が病的な状態でなくても、一定レベル以上で重複している場合には、やはりリスクが高くなるということだ。その場合、「内臓肥満」が蓄積している状態で、「血圧高値」「糖代謝異常」「高脂血症」の2つ以上が、一定値以上になると危険が高まる。
同じ脂肪であっても、内臓脂肪は皮下脂肪よりも健康に悪い影響を与える。内臓脂肪は単なるエネルギーの貯蔵ではなく、血圧を高くしたり、血栓を作ったりする成分を分泌するためだ。
皮下脂肪と区別するには、腹をつまんでみるとわかる。同じように腹がでていても、内臓脂肪の多い人はつまむことができない。このタイプは中年男性に多く、いわゆる「りんご型」の体型をした人がこれに当たる。内臓脂肪の量を直接計ることはできないが、ウエストで計ることで見当がつく。

メタボリックシンドロームの診断基準は、以下の通り。

1.

内臓肥満:ウエスト周囲が男性で85cm以上、女性で90cm以上(男女とも内臓脂肪面積が100平方cm以上に相当する)

2.

血圧高値:収縮期血圧130以上、または拡張期血圧85以上

3.

糖代謝異常:空腹時の血糖値が110mg/dL以上

4.

高脂血症:トリグレセライド150mg/dL以上、またはHDLコレステロール40mg/dL未満

上記のうち、1に加えて、2〜4のうち2項目以上が該当すると、メタボリックシンドロームと診断される。
では、実際にどの程度の人が該当しているのか、北海道端野・壮瞥町での調査がある。健康だと思っている男性808人を対象にした結果、21%がメタボリックシンドロームであった。追跡調査によれば、5年後に心血管疾患を発症した人は、正常値の人の2倍となっていた。
メタボリックシンドローム対策は、何よりも生活習慣の修正が大切である。40、50代から修正すれば、70、80代でもしなやかな血管を維持できる。

◇ゆるやかな運動によって心血管疾患を予防する
荒川規矩男氏

運動によって、さまざまな動脈硬化の危険因子が解消することがわかってきた。
血圧が運動によって下がることは、いまや常識にまでなったといってよい。1日の平均歩数と血圧とは、きれいな相関関係を見せている。

また、メタボリックシンドロームで危険因子とされている内臓脂肪は、運動によって燃焼しやすい性質をもっている。運動をするとまっさきに減るのが、内臓脂肪なのである。善玉コレステロールが運動によって増加することも、実験で証明されている。
さらに、軽い運動によって血管内皮機能が改善されることがわかっている。動脈硬化を予防し、しなやかな血管を維持することができるわけだ。

運動といっても激しいものはかえって体に悪影響を及ぼすことがある。最適なのは、ウォーキング(歩行、水中歩行)、サイクリング、社交ダンス、体操といったゆるやかな運動。血圧を下げる効果が高い。
ジョギング、水泳、エアロビクスなどは注意して行う必要がある。健康に気遣いジョギングをしている人が、これはあくまでも若いうちである。動脈硬化やメタボリックシンドロームになりかかっている人は、ジョギングはむしろ危険であることを覚えておいてほしい。
テニス、サッカー、バレーボールなどの球技、アルペンスキー、柔道、剣道、縄跳び、重量挙げなどの激しい運動は、健康増進には適していない。

軽い運動が心血管疾患の治療にもなる。血管が狭窄した人に軽い運動をさせたところ、血管がしなやかになって、血流も回復した。
年をとってからでも遅くない。60歳からでも、3キロ以上のウォーキングを続けた人は、そうでない人にくらべて、12年後に死亡数がほぼ半数となっている。
薬はあくまでも対症療法である。心血管疾患を根本から予防するには、原因を解消する運動が最善である。

◇楽しくおいしく食べるのが体にいい
竹内富貴子氏

動脈硬化を予防し、健康にいい食事を続けるには、あまり無理をしないこと。まじめに取り組みすぎないことが大切である。そして、楽しく、おいしく食べるとコレステロールもたまりにくい。目標を作るのは励みになっていいのだが、結果がすぐに出なくても、あせらないこと。
メニューの記録をつけるのはお勧めだ。デジカメを使って、毎食の献立をアルバムに貼っていくのもいいだろう。

血圧を下げたり標準体重を維持するためには、確かに摂取カロリーを下げるのが有効である。しかし、栄養素のバランスを考えずに摂取カロリーを下げると、体調を悪くして病気になりやすくなるので注意してほしい。

3大栄養素である炭水化物、タンパク質、脂質は、カロリー源として60:15:25の割合で摂取するのが理想的。そのうえで、ビタミン、ミネラルを適度にとればエネルギーとしてよく燃える。さらに、非栄養素として、食物繊維、機能性成分などをとる。
最近では、カテキンやポリフェノールといった機能性成分が注目されているが、あくまでも3大栄養素をしっかりとることが重要。そのうえで機能性成分をとるから、役に立つのである。

カロリーに関していえば、炭水化物とタンパク質は1g当たり4kcal。脂質は1g当たり9kcalである。ということは、エネルギーを保ったままカロリーの摂取量をコントロールするには、脂分を減らして炭水化物やタンパク質をとるのが効果的とわかる。
50〜69歳のエネルギーの食事摂取基準は、男性が2050kcal、女性が1650kcalとされている。しかし、適度な運動をすればそれぞれ400kcal、300kcalをプラスしてもかまわない。つまり、適度な運動をしていれば、それだけ食事の制限を減らすことができるというわけだ。

脂肪酸については、控えたいのが飽和脂肪酸(肉の脂肪)、n-6系(リノール酸)である。一方で、一価の不飽和脂肪酸(オレイン酸)やn-3系の脂肪酸(EPA、DHA)は積極的にとりたい。オレイン酸はオリーブ油などに含まれ、EPAやDHAは背の青い魚に多く含まれる。
そのため、週に1、2回はサバやサンマなどの背の青い魚をとりたい。できれば、生でとるのが理想だ。肉は、ロースではなく、ヒレ肉のような脂肪の少ない部位を選ぶこと。
その他、緑黄色野菜、食物繊維、機能性成分は積極的にとり、主食はほどほど食べるのがコツである。

塩分の摂取は1日6g以下とされているが、一気に減らすのは難しいので、まずは男性10g、女性8g以下を目指そう。塩分が少なくても、香辛料やハーブを活用したり、レモンなどの柑橘類を利用することによって、濃い味を保つことができる。


第1回シンポジウムの記録
『健康寿命を延ばすには ─日本人データでわかったこと─』


公益信託 日本動脈硬化予防研究基金(JAPF)
© Japan Arteriosclerosis Prevention Fund