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公益信託 日本動脈硬化予防研究基金(JAPF)  

「愛・地球博」開催記念
シンポジウムのご報告
『健康寿命を延ばすには ─日本人データでわかったこと─』

2005(平成17)年5月22日(日)、「愛・地球博」を記念し、愛知万博「高齢化社会と心血管疾患」委員会が主催する第1回シンポジウムが、名古屋国際会議場の白鳥ホールで開催された。
シンポジウムのテーマは、『健康寿命を延ばすには─日本人データでわかったこと─』。
このテーマのもと、2時間半にわたり、基調講演とパネル討論が行われた。

・主催

愛知万博「高齢化社会と心血管疾患」委員会

・協賛

公益信託日本動脈硬化予防研究基金

・後援

厚生労働省、愛知県、名古屋市、日本医師会、日本医学会、愛知県医師会、
東京都医師会、日本看護協会、日本薬剤師会、日本栄養士会

・連携協力

財団法人2005年日本国際博覧会協会

●概要

当日は小雨模様のあいにくの天候だったが、会場には約700人の受講者が詰めかけ、いまさらながら、高齢化社会への関心の高さが感じられた。

プログラムは、愛知万博「高齢化社会と心血管疾患」委員会の井形昭弘委員長の挨拶に続き、小澤利男 高知大学名誉教授が「健康寿命を延ばすには」というテーマで基調講演。
続いて、滋賀医科大学教授 上島弘嗣氏、自治医科大学教授 島田和幸氏、名古屋大学教授 大澤俊彦氏が登壇。基調講演を終えたばかりの小澤利男氏を交え、好本恵元NHKアナウンサーの司会のもと、活発なパネル討論が繰り広げられた。

パネル討論の後半では、会場の方の心血管疾患危険度チェックや、パネリスト自身による不摂生の告白もあり、和気あいあいとした雰囲気でシンポジウムが進められた。

●ご挨拶
名古屋学芸大学学長
愛知万博「高齢化社会と心血管疾患」委員会
井形昭弘委員長(専門:神経学、内科学、老年学)

医学の進歩や衛生状態の向上などによって、日本人の平均寿命は戦後急速に伸び、いまでは男女とも世界最高レベルとなっている。しかし、その一方で少子化ともあいまって、65歳以上の高齢者の割合は急速に増加。いまや、日本の高齢化は世界の最先端を歩んでいる。
このような急速な高齢化は、いまだどの国も経験したことのないことであり、それへの対応については、どこにもお手本を求めることはできない。すべて自分たちの力で開拓しなければならないのである。
世間では、高齢化社会というと暗いイメージを抱きがちだが、私はそうは思わない。人間として成熟した人たちが、豊かな経験を生かして社会に貢献できれば、むしろ社会は大きく発展していくはずだ。 それを可能にするには、高齢者が元気で活躍できるための健康づくりである。本日は、高齢者にとって最大の問題である脳卒中や心臓病といった心血管疾患を取り上げ、それぞれの専門家に解説、討論をお願いしている。ここで学んだことは、知識として身につけるだけでなく、ぜひ日常生活で実行していただきたい。

●基調講演
「健康寿命を延ばすには」

 高知大学名誉教授 小澤利男氏(専門:老年医学、循環器病学)

心血管疾患の予防が健康寿命を延ばす

はじめに、この講演のテーマにもある「健康寿命」とは何かという説明からはじめたい。
健康寿命の定義とは、「日常生活活動(ADL)に障害がなく、元気で生産活動している期間」のこと。簡単にいえば、あと何年自立していられるかという年数だ。
仙台市における調査によれば、65歳の男性の平均余命は16.1年。これに対して健康寿命は14.7年という結果が出た。つまり、自立できずに誰かの世話になる「要介護」の期間が、1.4年あるという勘定になる。女性では平均余命が20.4年、健康寿命17.7年となり、要介護は男性よりも長い2.7年という結果が出ている。
これからの医療の課題は、この要介護の期間をなるべく短くすることだといえよう。

その1つのアプローチが、心血管疾患の予防である。
心血管疾患とは、脳卒中(脳梗塞や脳出血など)、心臓病(心筋梗塞など)といった心血管系に由来する病気全体のこと。
高齢者の死因を見ると、脳卒中と心臓病を合わせた心血管疾患は、すでにガンを抜いてトップになっている。また、命をとりとめても、脳梗塞によって言語障害や運動障害が起き、自立の妨げとなるだけでなく、認知症(老人性痴呆症)の原因ともなってしまう。健康寿命を延ばすには、心血管疾患の予防が大きなポイントになることがおわかりだろう。

心血管疾患の危険性を増す「メタボリックシンドローム」

では、心血管疾患にかかりやすくなる危険因子は何か。
それは、高血圧、糖尿病、脂質代謝異常(コレステロール異常)、肥満症(内臓脂肪)の4つが大きな因子である。
また、程度が軽くても、いくつかの危険因子を兼ね備えていると危険である。その状態を、メタボリックシンドロームと呼ぶ。日本語に訳せば、代謝異常症候群という意味である。

メタボリックシンドロームの診断は、内臓肥満を前提として、高血圧、高脂血症、高血糖(糖尿病)の3つの危険因子のうち2つが基準を上回っていることで下される。
つまり、以下の1に該当する人で、2〜4のうち2つが当てはまれば、メタボリックシンドロームである。
1. ウエストが、男性≧85cm、女性≧90cm
2. 血圧が130-85以上
3. 空腹時の血糖値≧110mg/dL
4. トリグレセライド≧150mg/dL、またはHDLコレステロール<40mg/dL

心血管予防のポイント

それでは、心血管疾患を予防するには、どのような生活が望ましいのだろうか。
欧米では寿命の伸びに応じて、年齢を25歳ずつに区分し、25歳以下を生育期、25〜50歳を成人期、50〜75歳を熟年期、75歳以上を高齢期とする考え方が広まってきた。
そして、高齢期を健康に生きるには、50〜75歳の熟年期が非常に大切となってくる。
アメリカのフラミンガムという町では、1960年代から健康に関する追跡調査を実施しているが、それによると、50歳の人が75歳まで健康に生きるには、次の5つの条件を満たしている場合が多いという。
1. たばこを吸わない、2. 血圧が120-80以下、3. 呼吸機能が正常、4. 脈拍数が少なめ、5. 長生きの家系
このうち、3と4は運動習慣によってクリアできる条件だ。
つまり、この5つの条件をまとめると、「禁煙を実行し、食塩や脂肪を控えて、ウォーキングのような軽い運動をする」ことが大切だとわかる。5の遺伝的な問題については、治療法の進歩によってかなりカバーできるようになった。

老化を予防しよう

一方、人間は誰しも老化して、物忘れがひどくなったり、体が動きにくくなったりするものだ。これは、病気ではないものの、健康寿命を延ばすには、老化のスピードを遅くするのが理想である。それにはどうすればよいか。
もっとも大切なのは「使う」ことである。使わない部分は衰えていくものだ。そのために、次の3点を心がけてほしい。
1つ目は体の運動。繰り返しになるが、ウォーキングのような軽い運動を、1日に最低30分すること。2つ目は、頭の運動をすること。囲碁、将棋、絵画、俳句など、なんでもいいから頭を使って学習をしていただきたい。そして3つ目として、何ごとにも好奇心をもって取り組み、心を豊かに生きてほしい。

老化は誰にでも起こる現象である。問題は、そのスピードをどう遅くするか、そしてそれをどうプラスにつなげていくかである。そのためにも、生活習慣がいかに大事かを知っていただきたいのである。

●パネル討論

(パネリスト)
滋賀医科大学教授 上島弘嗣氏
(専門:循環器疾患の疫学、予防医学)
自治医科大学教授 島田和幸氏
(専門:循環器内科、老年病)
名古屋大学教授 大澤俊彦氏
(専門:食品機能化学)

(討論参加)
高知大学名誉教授 小澤利男氏
(司会)
好本 恵(元NHKアナウンサー)

◇日本人の高血圧
島田和幸氏

増加しているアテローム梗塞

脳卒中を大きく分けると、脳の血管が破ける脳出血、脳の血管がつまって壊死を起こす脳梗塞、そして脳動脈瘤が破裂するクモ膜下出血の3種類がある。このうち、老化や生活習慣に大きく関わっているのが、脳出血と脳梗塞である。
最近の傾向として、脳出血が減少する一方で、高齢化の進行にともなって脳梗塞が増加している。 そして、脳梗塞には、次の2つのタイプがある。

1. ラクナ梗塞
細い血管があちこちで詰まるもので、栄養不足の状態で高い血圧が続くと起きやすい。かつての日本に多かったタイプである。
2. アテローム梗塞
太い血管にアテロームができ(動脈硬化)、血栓ができて詰まる。高血圧、高脂血症によって血液がドロドロした状態になることが要因となる。命をとりとめても、後遺症として神経症状が出やすいのが特徴。運動障害や言語障害が起き、認知症を招く恐れもある。

このうち、日本ではアテローム梗塞が増える傾向にある。食生活の変化によって、カロリー過多となり、高血圧、高脂血症の人が増えているからだ。

危険な「仮面高血圧」

さて、脳梗塞の最大の原因は高血圧であるが、どの程度から要注意なのだろうか。
一般的には、140-90が1つの基準とされており、180-110となると重症である。正常血圧というのは130-85未満。さらに、本当に「いい血圧」というと120-80だ。少なくとも心血管疾患に限っては、血圧が低くて悪いことはない。
最近では血圧計が普及して、家庭で手軽に血圧が測れるようになっているので、これをぜひとも活用していただきたい。朝夕測れるために一日の変化がわかるだけでなく、診察室と違って緊張のない普段の値が測定できるからだ。家庭での基準は、診察室の場合よりも低めとして、135-85が高血圧かどうかの目安とされる。

血圧の測定には、いくつかの注意点がある。
たとえば、家庭では正常値なのに、診察室で緊張して血圧が高くなるという現象。これは、いわゆる「白衣高血圧」というもので、まず心配ない。
これに対して、診察室では正常なのに、家庭では135以上という「仮面高血圧」は、要注意だ。つまり、外来で測る昼間の時間よりも、家庭で測る朝方に高くなるタイプである。脳卒中は朝方に発症することが多いからである。
仮面高血圧の危険な点は、検査で見逃されてしまうことだ。自分でチェックして該当するようならば、医師に相談していただきたい。血圧は、朝、昼、夕方の3回測定するのがいいが、結果をあまり気にしすぎて血圧ノイローゼになってしまってもよくない。

注意すべき血圧とメタボリックシンドローム

さて、血圧が正常値に収まっていれば安心かといえば、必ずしもそうではない。ほかの要素がからまることによって、心血管疾患発症に大きなマイナスとなることがあるからだ。それが、小澤先生のお話にも出てきたメタボリックシンドロームである。
調査によれば、全人口の4分の1がこれに該当すると考えられている。ぜひとも、きちんと検診を受けてチェックしていただきたい。

◇データから見た脳卒中・心臓病
上島弘嗣氏

はじまった生活習慣と心血管疾患の疫学調査

戦後、不治の病とされた結核がほぼ撲滅されたあと、表面化されたのが動脈硬化性の脳卒中の増加である。
これを克服するために、各地域で生活している人を対象にして、どういう生活習慣をもち、どういう食事をしている人が脳卒中になりやすいのかが、長年調べられてきた。
その結果を世界各国のデータと比較しつつ、日本人の脳卒中の特徴を分析してきたわけである。
それに加え、ここにきて新たな調査がはじまった。公益信託日本動脈硬化予防研究基金の助成を受け、2004年以降、40〜89歳の男女12万人を対象に、5年以上にわたって行われる大規模な追跡調査である。これによって、日本人独自のデータが明らかになり、心血管疾患の予防に大きく役立つことだろう。

心血管疾患は血圧が高いほど危険

調査ははじまったばかりだが、すでに成果が上がりつつある。たとえば、血圧がどれほど脳卒中の発症に影響があるかという点である。
それによると、65歳未満で脳卒中を発症するリスクは、最高血圧130未満の人にくらべて、140〜160の人は男性で4倍、女性で2倍。180以上になると、男性で7倍、女性で4倍という高い数字が現れた。65〜75歳、あるいは75歳以上の場合では、やや比率は低くなるものの、やはり血圧が脳卒中に大きな関係を及ぼすことがわかった。
結論として、若い人でも高齢者でも、血圧は高ければ高いほど危険ということである。

世間では、「年とともに血圧が高くなるのだから、それほど心配することはない」という声を聞くが、だからといって放置していいというわけではない。高齢者であっても、生活習慣や降圧薬などで血圧の治療をすることによって、脳卒中の発症が約半分になったという報告もある。

喫煙による脳卒中の危険

脳卒中のもう一つの危険因子が喫煙である。
最近では、高血圧の危険性が広く叫ばれ、血圧のコントロールがある程度進んだため、こうした第二、第三の危険因子が表面化してきた。
喫煙による脳卒中の発生リスクは、男女とも、吸わない人にくらべて1.5倍以上。さらに、喫煙本数で細かい比較をすると、本数が増えるにしたがって男女ともリスクが増すことがわかった。
男性の場合、1〜20本で1.35倍、21本以上で1.8倍。女性の場合は、1〜20本で1.49倍、21本以上で2.75倍である。
これまで、喫煙は肺ガンや心臓病に悪いということは知られていたが、この調査によって脳卒中にも悪影響を及ぼすことが明らかになったのである。

高血圧と喫煙という2つの危険因子を取り除くことによって、脳卒中のリスクがかなり減ることは間違いない。

◇食事で予防 動脈硬化
大澤俊彦氏

5大栄養素に加えて第6、第7の栄養素を

食品の研究は世界に先駆けて、1984年に日本でスタートした。そこでわかってきたのが、「食品には栄養的な意味と同時に機能がある」という事実である。
従来から、体をつくるために大切な5大栄養素として知られてきたのが、糖質、脂質、たんぱく質、ビタミン、ミネラルだ。
だが、その後の研究によって、それ以外にも大切なものがあることがわかってきた。その1つが、第6の栄養素とも呼ばれる食物繊維。さらに最近になって、第7の栄養素として注目を浴びているのが、イオウ化合物やポリフェノールといった抗酸化機能をもつ物質だ。こういった成分を、どのように有効にとるかが、健康にとって極めて重要である。

第7の栄養素のなかで、私たちが重要視したのは抗酸化機能だ。というのも、体内が酸化するとさまざまな不都合が起きるからである。
具体的にいうと、LDL(悪玉コレステロール)が体内で増えると、体が酸化状態に傾いたときに、酸化LDLが増加していく。すると、血液の掃除人であるマクロファージが、有害な酸化LDLをとりこみ、泡のような泡沫化細胞となって、血管内皮細胞の内側に蓄積する。これによって血管の内腔が狭まり、動脈硬化が進行していくのである。
つまり、動脈硬化を予防し、脳卒中や心筋梗塞を防ぐには、体内が「酸化」するのを防ぐことが何よりも大切であり、そのためには日常の食事に注意する必要があるのだ。

抗酸化機能が高い「種子」類

私たちは、体内の酸化を防ぐ「抗酸化成分」を、これまでに400種類以上発見してきたが、その多くが野生の植物である。
なかでも植物の種子は、自分たちの生命力を守るために、抗酸化物質をもっていることが多い。たとえば、米の元祖である赤米、黒米、豆などである。こういった熱帯原産の植物は、皮の表面に色素として抗酸化物質をもっているために、強烈な日光による環境ストレスから自分の命を守っている。その力を、人間がどう利用できるかが課題なのである。

なかでも、私たちが注目している物質は、次の3つである。

1.

アントシアニン
種子の色素で、赤インゲン豆、黒インゲン豆、紫トウモロコシ、紫キャベツ、赤米、黒米などに含まれる

2.

クルクミン
香辛料のターメリック(ウコン)に含まれる黄色い色素で、沖縄で飲み物のほかウコン染めという染料に使用。南アジアでは女性が体に塗ることがあるが、これは単なる化粧ではなく、直射日光による皮膚の酸化を防ぎ、炎症を抑える作用があるとわかってきた。

3.

ごま
セサミノール、セサミン、セサミノール配糖体、セサモリンなどが含まれている

また、同じ物質でも、加工のしかたによって機能が変わってくることを知っておきたい。たとえば、大豆はもともと骨粗鬆症、乳ガンを防ぐ効果があるといわれているが、納豆や八丁味噌のように、大豆の発酵を進めた食品は、さらにその効果が高い。

もちろん、こういった機能があるからといって、そればかりとるとバランスが崩れてしまうので注意していただきたい。たとえば、カカオがいいからといって、ココアばかり飲んでいたら、コレステロールや脂肪が増えてしまう。
要はまんべんなくとることである。もちろん、伝統的な和食はバランスがとれているが、かといって昔のままに戻るのは難しい。むしろ、昔の食品のもつよさを、現代にどう生かしていくかを考えるべきだろう。
大切なのは、自分がどのようなものを食べ、どういう栄養が足りていて、何が不足しているのかを自覚することである。もちろん、あくまでもベースは食生活であるが、どうしても足りないものがあったら、そのときはサプリメントをとるのもいいだろう。


第2回シンポジウムの記録
『すこやかに長生き─しなやかな心血管を保つ、運動と食事法─』


公益信託 日本動脈硬化予防研究基金(JAPF)
© Japan Arteriosclerosis Prevention Fund